〇第1回口頭弁論 2017年5月19日(金) 14:00~15:00
5月19日に第1回の口頭弁論が行われ、原告の提出した訴状と、期日前に提出された被告の答弁書について裁判官から事実確認が行われました。被告の施設は事故の責任ついては認めたものの、賠償額について命を差別する姿勢を崩さず、争う姿勢を示しました。
原告は、過失で亡くなった場合の賠償額が、被害者の亡くなる直前の収入や障害の程度によって極端に差をつける慣行は是正されるべきとして差別のない賠償を求めました。対する被告の藤倉学園側は、原告側の主張を「独自の理論」として反論し、逸失利益に対する賠償責任はなく、慰謝料についても相変わらず慣行を下回る金額を呈示しております。
東京地裁で最も広い103号法廷でおこなわれましたが、準備された傍聴席85名分は満席となりました。
〇第2回口頭弁論 2017年9月22日(金) 14:00~15:00
9月22日に第2回の口頭弁論が行われ、事前に原告の提出した陳述書と意見書及び準備書面について、原告と原告の弁護団による要旨の説明があり、今後の期日や進め方について裁判官から確認が行われました。
原告は、前回同様、命の損害が障害の有無で差をつける慣行は是正されるべきとして差別のない賠償を求めました。又、立命館大学の吉村良一教授の法律の側面からの意見書、国立の障害者施設のぞみ園の研究部長志賀利一氏の重度知的障害者の就労状況の分析データの側面からの意見書が提出され、弁護団から意見書の要旨の説明と知的障害者の逸失利益をめぐる裁判例の時系列的データを踏まえた主張が行われました。
前回に続き東京地裁の103号法廷でおこなわれましたが、50名ほどの方がお見えになりました。
〇第3回口頭弁論 2017年12月22日(金) 14:00~16:30
2017年12月22日、東京地裁103号法廷で3回目の口頭弁論が行われました。
原告と被告が事前に提出した書面・意見書・証拠資料の確認や今後のスケジュールについて決められましたが、2時間半の大半は、原告である私達夫婦に対する尋問が行われました。
尋問は事前に提出した陳述書等の各種書面や記録などの証拠にもとづき行われました。
原告弁護団の先生方に続き、被告代理人弁護士からも私達夫婦に対し執拗な尋問がありました。
裁判の争点は、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、過失で息子を行方不明にさせ、高尾山近郊の山中で遭難死に至らしめた、被告の障害者入所施設藤倉学園が、過失は認めたものの、重度の障がいの子供は将来働くことができなかったであろうとして、賠償額に逸失利益を認めず、慰謝料も通常支払われるべき金額を下回る額を主張していることに対し、私達原告が、障がいの有無で賠償額に差をつけることは障がい者に対する不当な差別であると主張しているものです。
地裁が「争点を絞る」ことを主導し、「争点は損害論」として出発しています。今までの口頭弁論で提出された証拠は、「一般的な自閉症に関する文献」を除くと、原告側が準備したものにより裁判が進行し、原告が主張することに対し被告が反論するという形式で進んでいます。
今回の尋問では、原告として以下の主旨にもとづき、証言しました。
①我が国は法治国家であり、憲法で差別を禁止していること、権利条約という国際条約を批准し、障がいを理由に差別することを禁ずると国際社会に約束していることをあげて、「命と人生の損害賠償」に司法が率先して法律を守る姿勢を示して欲しい。
②そもそも障がいがあるから働くことができないと断定するのは間違っている。合理的配慮があれば充分働くことができる。現実に働いて成果をあげている実例がある。又、障がい者雇用の機会も割合も増えている。
③児童相談所の障害判定は福祉サービスが対象者にとってどの程度必要かを判定するもので、能力や将来の可能性を判定しているわけではない。
④私達の息子は成長途上の伸び盛りで、就労に必要な色々なことができるようになっていた。
対する被告は、以下の2つの骨子で反論し、特に②にもとづき私達被害者の両親に執拗な尋問を繰返しました。
①障害者に対する賠償額に差別を無くすべきという主張は独自の見解である。
②児童相談所の記録にいろいろな問題行動が記載されている。
児童相談所は、息子のような発達障害の相談について、必要な福祉のサービスを検討し、障害の判定などを行います。判定に際し、IQテストの結果を重視し、能力や成長の可能性より、育てていて困っていることのみを聴取し、短時間の観察で判定しているようです。この点について、専門家の方からは、欧米諸国では、障害判定にIQは採用しなくなっているともお聞きしております。
学校の記録では、年齢に応じ、コミュニケーションや社会性が身につき、又、就労に必要な能力も発達していることが記載されていました。
息子の児童相談所の記録には、妻や入所後の施設から聴取した問題行動と短時間の観察及びIQテストの結果程度のことしか記載されていませんでした。
又、記録を読んでいくと藤倉学園の現学園長と職員が東京都に対し最重度加算の助成を受けようとして、児童相談所の心理士の聴取に対し耳を疑うような虚偽の回答をしていることも記録されていることがわかりました。
亡くなった息子が、どんぐりや歯磨を食べたとか、自宅にいたときに妻に対し毎日暴力をふるい怪我をさせていたなど。
息子は自宅にいたとき、他害はなく、母親に対して愛情表現で突くことはあっても、怪我をさせたなどということは一度もありませんでした。近所でトラブルを起こしたこともなく、学校でも聞いたことがありません。学校で他人によく噛みつくお子さんがいて、被害を受けたことはありますが、不機嫌になっても仕返しをするようなこともありませんでした。
自宅にいたときにどんぐりなど全く興味を示したことはなく、食べ物以外の物を口にしたことはありませんでしたし、学校からもそのような報告を受けたことはありませんでした。
藤倉学園の最重度加算の助成要請は、実際に息子を観察した2人の心理士が却下した記録が公文書として残っています。
被告の代理人弁護士は、妻に対し、特に児童相談所の児童期のやんちゃな行動の記録をもとに執拗な尋問を繰り返し、私ども両親を怒らすためにやってきたとしか思えぬ行動に出ました。被告藤倉学園の預かっている障がいの子供に対する姿勢が、その代理人を通してよくわかりました。
原告弁護団の先生方が再主尋問でフォローしていただきましたが、特にベテランの先生が、相手の執拗な尋問を一蹴するあたかも鮮やかなリターンエースのような答弁をされたのがとても心強く感じました。原告の証拠資料として提出した我が国でも屈指の発達医療のドクターの意見書では、学齢期を過ぎれば自閉症特有の問題行動もなくなってくると記載されていました。又、15歳以降になっても成長の伸びしろが極めて大きいとも記載されていました。被告が強調して指摘した幼少時期の息子の問題行動は思春期を過ぎればなくなってくると回答したのです。
原告側は主張に合わせて、著名な学者の方や専門家の方々の意見書と、発達医療専門のドクターや障害者の雇用現場の責任者の方を証人として準備しましたが、被告側は自分達の主張を立証する意見書や証人を準備することができておらず、息子の障害判定の診断にかかわった医師への依頼を試みたようですが断られたとのことでした。
私達は裁判に踏み切ったときから和解はしないという方針で臨んでまいりましたが、改めてその決意を固めました。
今回の期日では、3回目ということもあり、傍聴いただく方がたくさんは望めないと思っておりましたが、応援いただいている皆様方の呼びかけもあり、70名位の大勢の方に来ていただくことができました。とても心強く、皆様方のご厚意に深く感謝しております。
〇第4回口頭弁論 2018年4月20日(金) 14:00~16:00
2018年4月20日(金)、4回目の公開裁判が東京地裁103号法廷で実施されました。
私達の応援のため約40名位の方に傍聴にきていただきました。集まっていただいた方は、支援の会・SNSの呼びかけによりお集まりいただいた皆様、報道や法律関係の方に交じって、被告以外の施設関係の方や障害者雇用の方も応援のためにはせ参じていただきました。又同様の訴訟を続けている原告の方も駆け付けていただきました。
原告自身は、過失による命の賠償に障害の有無で差別をすることに異議を唱えて、今回の訴訟を開始ししており、根拠として法律学者の意見書を裁判所に提出しています。
原告代理人は、既往の裁判例を踏まえながら、原告の意向に沿った判決が出るように、専門家の意見書や証人を準備して裁判を進めています。
今回の期日では、原告側証人として、発達精神医学の分野では我が国屈指の医師市川宏伸先生が出廷し証言されました。
被告の藤倉学園は、児童相談所の最後の判定で最重度の障害判定を受けた息子は将来働くことができなかったとして、賠償に逸失利益を認めず、慰謝料も基準を下回るもので、逸失利益に含めるべき障害年金も否定しております。
市川先生は、息子の医療記録を確認し、学校の記録や家庭での様子から、そもそも児童相談所の最重度の判定に疑問を呈し、判定結果が東京都の判定基準にも則していないことを証言されました。又、自閉症であっても知的障害であっても、環境が整えば十分働くことができると証言されました。
期日に合わせて提出された、原告側代理人の辻川先生が作成し、裁判所に提出された「第二準備書面」は発達精神医学における「自閉症」と「知的障害」を判りやすく解説したのちに、自閉症児の発達や障害と就労について論説し、継続支援により亡き息子の就労可能性が十分にあったことを主張しています。専門文献や息子の医療・学校・児童相談所の記録、といった確固たる証拠に基づくもので、蓋然性の高い内容でした。
裁判官の問い合わせに対して、被告代理人は、今後専門家の証人や意見書を提出する予定はないとしています。被告の藤倉学園が加盟している同業者団体の理事長の意見書の提出は考えているようですが、障害者支援を職業としている人に障害者の将来や可能性を否定する意見書を準備させようとしている被告の姿勢に違和感を覚えます。
今後の裁判予定は、当初予定されていた次回期日の7月27日が、非公開の原告側証人の所在尋問に変更されました。次回の公開裁判は12月7日(金)13:30~15:30に東京地裁の103号法廷で行われます。裁判官からは最終弁論と示唆されています。
皆様の応援はとても心強く、裁判官の姿勢にも少なからず影響していることが感じられます。引き続き応援をよろしくお願いします。
〇所在尋問 2018年7月27日(金) 非公開
障がい者を雇用している某特例子会社で所在尋問が行われました。特例子会社社長が証人となり就労現場における戦力としての障がい者について原告側の証人として証言していただきました。社名を公表しないという条件で原告側の証人を請け負っていただきましたので、当社の意向を尊重した裁判所の提案により、出張形式の所在尋問になり当社の会議室で証人尋問が行われました。作業工程や指導及び評価方法等に合理的配慮があれば障がいの程度に関わらず、能力を活かすことが出来、戦力として又収益源として雇用を継続することが十分にできる事と、スタート時点で最低賃金を越えている事、賞与も昇給もある事など具体的な数字を踏まえて明言していただきました。
〇第6回口頭弁論(結審) 2018年12月7日(金) 13:30~15:00
2018年12月7日(金)、5回目の公開裁判が東京地裁103号法廷で実施されました。
私達の応援のため約60名位の方に傍聴にきていただきました。集まっていただいた方は、支援の会・SNSの呼びかけによりお集まりいただいた皆様、報道や法律関係の方、障害者雇用の方も応援のためにお見えいただきました。又名古屋で同様の訴訟を続けている原告の方も駆け付けていただきました。
事前に提出した弁護団の弁護士の共著による最終準備書面の要点について原告側の代理人による説明があり、又同様の裁判で経験豊富な東京、札幌、名古屋の弁護士が原告側の主張を行いました。又原告両名もそれぞれ最後の陳述を行いました。被告側からの陳述はありませんでした。
次回、2019年3月22日(金)AM11:00に東京地裁103号法廷で判決が行われることになりました。
〇判決 2019年3月22日(金) 11:00~11:20
2019年3月22日(金)、判決言い渡しが東京地裁103号法廷で実施されました。
私達の応援のため約60名位の方に傍聴にきていただきました。記者席が10席ほど設けられました。
写真撮影が行われた後、裁判長から判決主文の申し渡しが行われ、根拠の説明がありました。
賠償額の総額は52,126,442円 これに死亡したと想定された2015年9月10日から支払い済みまで年5%の延滞損害金を加算した額の支払いを被告に命じた判決。
平成27年度賃金センサス 男女計学歴計19歳までの平均賃金にもとづきライプニッツ係数により逸失利益が算定されました。控えめな賃金センサスを適用したことから、生活費控除率は40%として算出することとされました。逸失利益に加えて息子固有の慰謝料2,000万円と相続人の慰謝料計500万円に弁護士費用が加算されました。又、2015年9月10日から支払われるまでの延滞利息5%の支払いが被告に課されました。
これは過去の裁判例として引用されてきた、札幌、青森、埼玉、名古屋、大阪で行われた障がいの子供の判決や和解と比べ、現時点で最高額となりましたが、障がいの子供と健常の子供の間に存在する溝を埋めることは残念ながらできませんでした。
判決文では、「我が国における障害者雇用施策は正に大きな転換期を迎えようとしている。知的障がい者の一般就労がいまだ十分でない現状にあるとしても、かかる現状のみに捕らわれて、知的障がい者の一般企業における就労の蓋然性を直ちに否定することは相当ではなく、あくまで個々の知的障がい者の有する稼働能力(潜在的な稼働能力を含む。)の有無、程度を具体的に検討した上で、その一般就労の蓋然性の有無、程度を判断するのが妥当である。」と述べたうえで息子について「特定の分野、範囲に限っては高い集中力をもって障害者でない者と同等の、場合によっては障害者でない者よりも優れた稼働能力を発揮する蓋然性があったことがうかがえる。」と評しました。「総合考慮すれば、一般就労を前提とした平均賃金を得る蓋然性それ自体はあったものとして、その逸失利益算定の基礎となる収入としては、福祉的就労を前提とした賃金や最低賃金によるものではなく、一般就労を前提とする平均賃金によるのが相当である。」と記していました。
判決文と裁判長の言葉の中に、障がいの息子の能力に敬意を払う箇所を見出すことができ、とても印象に残りました。